春といえば、私は真っ先に天才トランペッター、クリフォード・ブラウンの代表作「Joy Spring」が心に鳴り響きます。1954年にクラシックミュージシャンであった妻ラルーのために書いた曲で、彼女のニックネームがそのままタイトルになっています。本作はドラマー、マックス・ローチとの双頭リーダー作品で、そのマックスが2人の縁結びのキューピットであったそう。プロポーズの曲であったともいわれています。幸せな愛に溢れるクリフォードの温かさが伝わってくるかのような曲です。そのわずか2年後。不慮の事故で25歳という若さで突然の早逝。ジャズ界は大きな衝撃を受けました。溌剌としたクリフォードの輝かしい演奏とこの名曲は歴史に刻まれ、永遠に色褪せないでしょう。
ビル・エヴァンスはいつ聴いても心の奥に沁みてきます。それは無理のない自然で素直な歌をピアノで表現しているからだと思います。本作品のコンセプトはバラードアルバムで、ゆったりとした曲が中心。静かな思いに耽るのは最高ですし、聴けば聴くほど味わい深く、生活の中でこのアルバムはいつでも楽しめます。大好きなリチャード・ロジャース作曲によるスタンダードソング「It Might As Well Be Spring」は、ここでは少し気だるさも感じます。「春だからといって無理に明るくならなくてもいいんだよ」と、ビル・エヴァンスが優しく語りかけてくれるかのようです。アルバム全体を通して、儚く旅立った盟友ベーシスト、スコット・ラファロへの想いを乗り越えようとするビル・エヴァンスの強さと切なさを感じるアルバムにも私には聞こえます。ちなみに、このアルバムの対となる作品は「How My Heart Sings!」で、こちらはアップテンポの曲が収録されています。是非ビル・エヴァンスの深遠な世界をご堪能ください。
私のジャズとの出会いは9歳の頃で、オスカー・ピーターソンとアート・ブレイキーから始まりました。彼らが来日した際、ライブを観に親が連れて行ってくれたのです。今に繋がる宝物のような経験で、両親に感謝しています。余談ですが、私は6歳離れた弟と誕生日が同じで、それはなんとオスカー・ピーターソンとも一緒!ちょっとした自慢です(笑)。スタジオで録音された適度に抑制の効いたアルバムも好きですが、時には時間を気にしない白熱した興奮が止まらないようなライブアルバムも聴きたくなります。このアルバムは抑制と白熱という、その両方の魅力を感じられる最高の瞬間を捉えたライブです。このライブが聴けたコペンハーゲンの聴衆が羨ましい!レギュラートリオならではの一糸乱れぬ一体感、スイング感のお手本のような演奏が繰り広げられます。「Younger Than Springtime」はリチャード・ロジャース作曲のあまり取り上げられることの少ない春のナンバー。新たな出会いや挑戦、この時期ならではのワクワク感がこの演奏からも滲み出ているように感じます。
豪快なプレイで魅了したトランペッター、フレディ・ハバード。ジャズミュージシャンに愛され続ける名曲「Up Jumped Spring」は、彼が残した曲の中でも勇ましいハードな面ではなく、美しくセンシティブな部分がよく表れています。リリカルで親しみやすいメロディは、飛び跳ねたくなるような高揚感があり、まさにタイトル通り。可愛らしい一面をもつこの曲には圧倒的で華やかな演奏がトレードマークであったフレディ・ハバードの余裕や懐の深さが表れているように感じます。私のリーダーであったトランペッター、ロイ・ハーグローヴのアイドルの1人もフレディ・ハバードで、ロイの中にもその静と動の美の精神が宿っていました。
2023年末、惜しまれながら88歳で逝去したジャズピアニスト、レス・マッキャン。彼が残したご機嫌なヴォーカル作品。ソウルフルでファンキーな西海岸を代表するピアニストが自ら弾き語りするアルバムで、私はこの中に収録された「Next Spring」が春に向かう高揚感を感じられて大好きです。繰り返し聴きたくなるような魔法を感じます。ジェラルド・ウィルソンのツボを押さえたアレンジとレス・マッキャンの渋い歌声の相性も抜群!幼い頃から教会の聖歌隊で歌い、海軍タレントコンテストの歌唱部門で優勝し、米国を代表するテレビ番組「エド・サリヴァン・ショー」に出演するなど、ピアニストとしてだけでなく、ヴォーカリストとしての才能にも惚れ惚れします。ユージン・マクダニエルス、ロバータ・フラックやモンティ・アレキサンダーらを見出したのも彼で、偉大な功績と共に彼の残してくれた魂の音楽はこれからも人々を虜にするでしょう。
「Spring Can Really Hang You Up The Most」は一般的にはウキウキするような春の季節に対して、逆に憂鬱な気分が淡々と歌われています。泣きのメロディとコード進行が魅力的で女性シンガーに好んで歌われますが、特に私が好きなのはチック・コリアのピアノとのデュオで、戯れるように歌うこのチャカ・カーンのバージョン。2人の自由な遊び心満載な演奏が軽やかに響きます。作品はオールスターのメンバーによるセッションで、ドラマーのレニー・ホワイトのプロデュースにより実現した彼女の珍しいジャズアルバム。最後に満を持して登場するこの曲の曲順といい、たまらなく好きです。初共演とは思えない、意気投合したチャカ・カーンとチック・コリアが起伏あるドラマチックなこの曲のメロディの魅力を十分に伝えてくれます。
ニューヨークでは素晴らしいライブを多く聴くことができましたが、その中でもとびきり感動し、今でもその時の興奮が鮮明に思い出されるのは、私が最も大好きなシンガーと言っても過言ではないアーネスティン・アンダーソンです。シアトルに住んでいた彼女は高齢になり、ニューヨークでのライブは数少なかったのですが、毎回欠かさず聴きに行きました。楽屋でお話をしてサインを頂き、完全にファンの1人でしたが、いつかは彼女との共演を願っていました。残念ながら実現はできませんでしたが、ライブで感じる経験は録音とは比べ物にならないほど、さらに心震えます。皆さんもお気に入りのアーティストを見つけたら、是非ライブにもお出かけください。
当時SavoyレコードのA&R、オーナー兼プロデューサー、作曲家でもあったオジー・カデナはこの時期にハンク・ジョーンズと多くの作品を制作しています。二人が信頼し合う良好な関係にあった事は、特に本アルバムではオジーの曲を多く収録している事からも窺えます。すでにハンクはミュージシャン誰しもが一目置くベテランの域に達していて、時代を代表する名バンドのピアニストとして引っ張りだこの存在でした。本アルバムを含むSavoyレコードでの一連のアルバムは、リーダー作として満を持しての作品。この時期の録音は一曲の演奏尺が長く、思う存分自由自在にソロを取るハンクを楽しめます。輝かしいソロを取るトランペットはドナルド・バードとマティ・ダイス、骨太で木の響きがしっかりと聞こえるベースのエディ・ジョーンズ、ビバップドラムの先駆者ケニー・クラークのシンプルな中にも個性光るアイディアと、個々の技量が絶妙に絡み合い、全体として穏やかでいて味わい深い作品です。ピアノが最も喜ぶ上品で洗練された最高のタッチを持つハンク。そこから奏でられる琴線に触れる温かい音楽の魅力。ハンクの本質はすでに当時から完成されているように感じます。2010年、私は師ハンクを看取ることになりましたが、彼は最後までその魅力を磨き続けていました。オジー作の『Summer’s Gone』で猛暑の中でも耳からクールダウンして欲しいと思います。
フランク・ウェスはハンク・ジョーンズの親友でもあり、二人とも冗談が大好きなチャーミングな紳士で、私はよく二人のお宅にお邪魔して長時間セッションをしてもらっていました。テナーサックスとフルートの巨匠であるフランクとの交流はカウント・ベイシーを感じられる経験でもあり、コールマン・ホーキンス、レスター・ヤング直系のテナーサックスの歴史を感じられる最高のレッスンでした。また、フランクの吹くフルートはまるで風が舞うように軽やかで上品。流石はジャズフルート奏者として第一人者の余裕。ほんの一瞬で心をグッと掴まれる魂を持つ音色を感じながら一緒に演奏できたかけがえのない時間は、感動の連続でした。フランクからは、音楽が呼吸をするかのように溢れ出てくる感覚を味わいました。それは音を出す意味、音楽をする意味をも深く考えさせられる経験であり、私の大きな指針となっています。本アルバムは当時ベイシーバンドに10年近く在籍していたフランクの経験が滲み出るリーダー意欲作。オリバー・ネルソンをアレンジャー兼テナーサックスに迎えた事も功を奏し、リーダーフランクにたっぷりとソロのスポットが当てられているだけでなく、実力者メンバーによるバンドとしての一体感も素晴らしいです。『Summer Frost』ではフランクの持ち味である、ビリー・ストレイホーン、そしてドビュッシーにまで通じるリリカルなハーモニーセンスを感じられます。“真夏の霜”と題されたこの曲で暑さを忘れるひと時を。
ファンキーでグルービー、スウィンギーでロマンチック。楽しさ溢れる理想的なピアノトリオ、スリー・サウンズはジャズの玄人から初心者まで誰でもウェルカムしてくれるような懐の深さがあります。基本的にメンバー3人が対等な関係のトリオですが、どうしてもピアノのジーン・ハリスがその楽器の特性もあり、実質的にはリーダーシップを発揮しています。ベースのアンディ・シンプキンスの地を這うようなアーシーなグルーヴ、ビル・ダウディの心憎くツボを外さない安心のリズムポケット。3者が一体となると思わず体が自然と動いてしまいます。これ以上何を望む必要があるのでしょうか。ダイナミックな表現はビッグバンドから、そしてアール・ハインズ、エロル・ガーナー、オスカー・ピーターソン、アーマッド・ジャマル、レッド・ガーランドなどの影響から完全に自分の世界を築いたジーン・ハリスの魅力はいつの時代も決して色褪せないでしょう。スリー・サウンズの手にかかるとガーシュウィンの名曲『Summer Time』は情熱的、そして同時にクールに料理されます。その絶妙なバランスがこのトリオ最大の魅力です。いつもスリー・サウンズのレコーディング中は、レコーディングエンジニアの伝説的巨匠、ルディ・ヴァン・ゲルダーをはじめ、スタッフは音楽に併せてダンスをしていたそうです。この話は直接ルディから伺いました。ルディの生前最後のレコーディングは、ジミー・コブのトリオでピアニストは私でした。ジーン・ハリスが弾いたその同じピアノを弾く経験!初めて弾くピアノなのに聞き覚えのある懐かしい音色。そう!ここで録音されてこのピアノから生まれた数多くの名盤がオーバーラップしてきました。当然ながらご機嫌な本作の事も頭によぎりました。
時代が時代なら、きっと歌声喫茶で皆で歌おう!というぐらいポップで耳馴染みの良い作品です。ナット・キング・コールの作品の中でも、ジャズ色は控え目で明るく非常に親しみやすい。どの曲も短く、子供の頃にこんな素敵なアルバムに親しんでいたら最高だったと思います。タイトル曲は同年1963年放送のBBC special “An Evening With Nat King Cole” でナットが歌う映像を観ることができます。ウクレレを手に弾く真似をしながら歌うその姿はどことなく寂しさを感じます。これはナット晩年の映像で、2年後、肺がんにより世界中から惜しまれながら45歳の若さで旅立ちました。そう考えると本作は世界中の子供達への置き土産のようにも感じられます。そして、底抜けて明るいが故に、逆に悲しみが込み上げてきます。きっと一度は耳にした事があるメロディ『Get Out and Get Under the Moon』は日本では戦前に榎本健一が「エノケンの月光價千金」としても歌いヒットしたスタンダードの名曲。『There is a Tavern in the Town』は、Head Shoulders Knees & Toesとして英語の子供歌でもあり、日本では「街の居酒屋にて」という曲名でも知られています。本アルバムの白眉はなんと言っても『That Sunday, That Summer!』このアルバムから生まれた後世に残るであろう名曲です。人生の黄昏時に差し掛かっている事を感じ、残された時間の中でナットが歌っているかもしれないと考えると、、さらに涙が溢れます。
当時大流行し始めたボサノヴァの影響も受けながら、マイルス・デイヴィスと名アレンジャー、ギル・エヴァンスの二人が組んだ最後の作品。トランペット協奏曲の構想もあったそうですが、スタジオ代や大所帯バンドのミュージシャンへの支払いも嵩み、マテリアルが足りず発売は控えられ、寝かされていたという曰く付きの作品です。アルバムとして発表するために他の日からのテイクを切り貼りし、他のミュージシャンとのテイクを足したため、やや唐突な編集感のある作品となってしまったのは残念な部分ですが、全体を通して良い意味で掴みどころの無いミステリアスな静寂さを秘め、まさに“Quiet Nights”というタイトルがぴったりの作品となり、聴き込むほどに味わいが増します。プロデューサーのテオ・マセロの意図は十分に反映されたのでしょう。しかし、マイルスは不満で、テオとしばらく仕事をしなくなってしまいます。イギリスからアメリカに渡った新進気鋭のピアニスト、ヴィクター・フェルドマンとのテイク、ハリー・ウォーレンの隠れたスタンダードソング『Summer Night』のスローな3拍子の雰囲気に惹かれます。マイルスのミュート奏法による緊張感のある深いバラード表現は、マイルスにしか出せない世界観です。ヴィクター・フェルドマンとの相性は抜群で、マイルスはヴィクターにバンドのピアニストになってもらいたかったそうですが、ツアーを好まず、スタジオミュージシャンの道を選んだため、申し出を辞退。結局、ハロルド・メイバーン、そしてハービー・ハンコックに落ち着きます。ヴィクターがピアニストとして入ったマイルスのバンドももっと聴きたかったです。ミッシェル・ルグランの『Once Upon A Summertime』では、夏の夜への誘いや清涼感ある風を感じられます。
2020年9月27日、NYでアジア人ヘイトによる理不尽な事件に巻き込まれ、ピアニスト生命が絶たれる可能性もあるほどの重傷だと、担ぎ込まれた病院で医師から告げられた時、実感がありませんでした。幼少の頃から呼吸をするようにいつもそこにあったピアノを失うことへの漠然とした恐怖。押し倒されそうな感覚の中、なんとかそこに立っている為には希望を持つしかありませんでした。ある時、ピアノが全く弾けない間でも心の底で確かに聞こえてくる音の存在を感じ、どういう状況でも音楽を考え続けている自分にハッと気がつきました。幸い心温かい友人や仲間、コミュニティからの援助を得ながら、NYで2度の手術、そしてリハビリに励み、痛みがまだ残る中、大切な仲間とスタジオに入り、あの時に自然と聞こえてきた音を収録したのが本作です。暴力や差別に決して屈する事なく必ずまた力を取り戻す、という自分を鼓舞する意味と、人類が未だ経験した事のない困難に直面する時代となり、それでも今ここに生かされている事に感謝しながら、他を思いやり互いに高めあっていけたらという願いを“Get My Mojo Back”というタイトルに込めました。悲しみ、苦しみ、怒りといったネガティブな感情でさえ、ポジティブなエネルギーの音に変えたい。私が奇跡的に復帰できた事を単なる美談とするのではなく、これからが分かり合える社会への大きな挑戦の始まりです。ジャズはブルースからできていて、その悲しみの上で成り立ってきた歴史があります。本当の喜びを知るためには、本当の悲しみを知らないと喜びがわからない。絶望的な状況を経験することになって、自分の音楽がまた変わってきているように感じています。皆さんにはこういった作品の背景にあまり捉われず、ただ音を純粋に楽しんで頂ければ幸いです。
Enjoy It While You Can!
意欲的なオリジナル曲「Glass Enclosure」のミステリアスな魅力に通じるイントロからスタートする「Autumn In New York」。私が初めてこの曲と出会った大好きなバージョンです。秋のニューヨークの喧騒やセントラルパークを急ぎ足で颯爽と行き交う人々の姿が感じられます。モダンジャズピアノの開祖バド・パウエルは、他を寄せ付けないような圧倒的な鬼気迫る演奏で、共演者が誰であっても一貫して揺るぎない自己表現をする逞しい輝きを持った存在です。ビル・エヴァンスをはじめとして、以降のほぼ全てのピアニストに絶大な影響を与え続けています。彼はビバップの先駆者として、メアリー・ルー・ウィリアムス、セロニアス・モンク、ディジー・ガレスビー、チャーリー・パーカー、ケニー・クラーク、チャーリー・クリスチャンらと共に時代を前進させ、今の時代もその輝きを失いません。なお本作のメンバー、ドラマーのロイ・ヘインズは99歳でただ一人今もご健在です!
ビリー・ホリデイの魅力はその独特の歌声にすべて含まれていて、聴く度に人生の喜びや儚さを同時に感じさせてくれます。それは彼女の生い立ち、苦難の絶えなかった壮絶な人生経験が深い表現へと昇華されているのでしょう。歌にはそれぞれのドラマやストーリーがあり、それを伝える歌い手の人生が曲に魂を与え、より広がりを持たせます。ビリー・ホリデイの歌は、その曲でのまるで彼女自身の人生を歌っているように感じ、逆に言えばその繋がりがない曲はおそらく歌っていないのだと思います。それぐらい歌とビリーが一体になっています。つまりそれは心からの表現のブルースであり、歌わずにいられない表現こそが、聴く者の心の琴線に触れます。決して派手に歌い上げず、いつでも静かに熱く何かを伝えてくれる真のアーティスト、ビリーの歌う「Autumn In New York」はこの曲の決定版。オスカー・ピーターソンらの小粋なバックアップも花を添えています。
昨年2023年に惜しまれながら92歳で旅立ったアーマッド・ジャマル。幼少時からピアノを始め、聴いたものはなんでも弾けてしまう天才少年でした。主にシカゴを活動拠点としていた50年代、その存在は知る人ぞ知る伝説的なミュージシャンで、より多くのファンに認識されたのは、やはりマイルス・デイヴィスの存在が大きかったようです。スターになったマイルスが彼のファンであることをめずらしく公言したり、アーマッドが取り上げていたスタンダードソングの数々をマイルスもいち早く録音し、そればかりかコンセプトやアレンジまで拝借するという傾倒ぶりでした。その時期に録音された本作からは、瑞々しいアーマッドの自由な表現を随所に聴くことができます。「Autumn Leaves」は生涯に渡って演奏し続けたアーマッドの愛想曲。ギターのレイ・クロフォードのパーカッションを意識した奏法も楽しさに溢れます。軽やかで小粋なナット・キング・コールの影響、同郷の先輩エロル・ガーナーの影響から発展させ、伝統に深く根差しながらも独自のスタイルを築いたアーマッド。そのヒップなサウンドは時代を超越するカリスマ性があり、現代のDJやヒップホップのサンプリングソースにもなり、若い世代までその影響は脈々と続いています。
キャノンボール・アダレイの圧倒的な歌心とブルース、心躍るリズムの虜になったマイルス・デイヴィスがいます。マイルスはテナーサックスをバンドに迎えてライブを行っていましたが、ジョン・コルトレーンなどお気に入り奏者の都合がつかない時期にキャノンボールと出会い、意気投合。早速キャノンボールをリーダーに立てているものの、実際はマイルスがリーダーとしてプロデュースした作品。メンバーはマイルスが信頼する長年の達人で固められていますが、ピアニストの第一候補(これは私の推測ですが)はもしかするとアーマッド・ジャマルであったかもしれません。というのは、この時期マイルスはアーマッドにレコーディングやバンドへの誘いをしたという逸話があるからです。すでにリーダーとして精力的な活動を行っていたアーマッドは、サイドマンとしてのレコーディングやツアーを好まずその依頼を断ったとされます。結局は当代最高峰のハンク・ジョーンズが担当しますが、軽やかで華麗なタッチはアーマッドもハンクも共に持ち味であり、ベースのサム・ジョーンズ、ドラムのアート・ブレイキーと共にマイルスの人選の妙が冴えています。1956年の“The Ahmad Jamal Trio”に収録されていた「Autumn Leaves」から、イントロを含めて借用し取り上げたアイディアもマイルスの強いこだわりからなのでしょう。影のリーダー、マイルスの存在により抑制が効き、リラックスしたキャンノンボールの見事な表現で、歴史的名盤との呼び声が高い作品です。
歴史に名を残すミュージシャンの情感溢れる演奏は、カテゴライズできず一つの枠に収まりません。ジョン・コルトレーンも例外ではなく、エネルギー全開でハードに吹き続ける、魂の叫びともいえるフリーな演奏も彼のトレードマークの一つですが、同時にセンシティブでリリカルな演奏も持ち味です。熱気を帯びた演奏の時でさえも、リラックスを感じる相反する要素も聞こえてきます。本作はコルトレーンの発案により実現した、ジョニー・ハートマンとの共演盤。40年代にディジー・ガレスビーのバンドメイトであった旧友ハートマンに録音の話を持ちかけたところ、当初ハートマンは気乗りしなかったようです。しかし後日、コルトレーンのライブを聴きイメージが湧きオファーを承諾。録音当日はヴァン・ゲルダー・スタジオに向かう道中にナット・キング・コールの「Lush Life」を偶然聴き、この曲を急遽録音することに決めたというほど気分が高まっていたそうです。当時、世間から正当に評価されていなかった素晴らしいハートマンを紹介したいと考えていたコルトレーン。旧交を温める二人を不動のレギュラーカルテットのメンバーがセンシティブに盛り立てます。コルトレーンはサックス歌い、まるでシンガーとしてハートマンとデュエットしているよう。コルトレーンの演奏からはいつも歌詞も聞こえてくるかのようです。ルンバで演奏される「Autumn Serenade」は独特の秋の空気や風が感じられ、秋の夜長に物思いにふけながらいつまでも浸っていたい魅力的な曲です。
偉大なジャズの父でありニューオーリンズの最高の誇り、ルイ・アームストロングのヒットソング集。本盤がまとめられたのは1961年ですが、収録曲は1930年代の録音。一瞬聴いただけでサッチモだとすぐにわかるトランペットと歌声。100年近く前のこのアルバムが今でも新鮮に心に響くのは、音楽の良し悪しは決して新しいか古いかではない事の証明です。良い音楽は永遠に色褪せず時代を超越するタイムレスなもの。それはそこに心を感じるからに他なりません。サッチモの生きてきた困難な時代、そこから生きる喜びへと昇華させた見事な音楽表現は、文字通り世界中に今でも愛を示し続けています。「Snowball」は外はしんしんと雪が降り積もる中、家の中では暖かい暖炉を囲む家族の団欒を感じます。この時代特有のあたたかい音は琴線に触れ心をそっと温めてくれます。大らかで哀愁漂う音色のサッチモのトランペットと歌声が、紛争の絶えない激動の現代にこそ今まさに求められているのではないでしょうか。
音楽をジャンルでカテゴライズする事は、一つの狭い箱に入れてしまうようであまり好まないのですが、「ソウルミュージック」という言葉だけは「まさに!」という見事な表現だと思っています。これまでジャズをセレクトしてきましたが、ソウルミュージックも実はジャズミュージシャンが大きく関わり演奏しています。本作は元々はジャズベーシストであり、プロデューサー、映画音楽家等、多彩な顔を持つシカゴの巨匠ジョニー・ペイト(現在満100歳!)がアレンジを担当。カーティス・メイフィールドの哀愁ある歌に寄り添う、迫力あるあたたかい特徴的なホーンアレンジは彼によるもの。「Long Long Winter」は失恋により長い冬の到来を告げる曲ではあるものの、どことなく3拍子が軽快で明るく希望も感じます。ジャマイカではThe Impressionsの大ファン、ボブ・マーリーが自身の解釈でこの曲をはじめグループのカバー曲を好んで歌い、The Impressions はレゲエのルーツの一部とも言ってもよい程の貢献しています。「魂の音楽」はジャンルに関係なく軽々と国境や人種、そして時代を越えて響き、一つの狭い箱になど到底収まりません。
一曲目の「Lovery Day」のベースラインが流れた瞬間から、このアルバムのポジティブなフィールが全開!アルバムジャケットにもその雰囲気がよく表れています。ビル・ウィザーズ(2020年他界)のライブに接する機会はついに訪れませんでしたが、彼の残した名曲の数々は、いつでも心に寄り添ってくれるあたたかさがあります。本アルバムでも凄腕メンバーが魅力的な演奏を繰り広げますが、私は特に「Wintertime」でご機嫌なシンセソロを取るクリフォード・コールターに惹かれます。寒く長い冬、降り積もる雪もいつかは太陽が溶かすと歌われるこの曲とも重なる、まるでサンシャインのようなソロ!曲の終わりのフェードアウト付近のため、あまり多くの人は気がついていないと思われるのが、クリフォードが古いスタンダードソング「Louise」をさりげなく引用するところ。彼のジャズミュージシャンとして湧き上がる魂を感じます。初めてこの心憎い引用に気がついた時、私は思わずイエーイ!と声をあげてしまいました。
アーマッド・ジャマルが鉄壁のレギュラートリオを率いて、短期間自身が経営していたシカゴのライブハウスで行われたライブアルバム。その為か、いつも以上にリラックスした肩肘張らない普段着のトリオの演奏が楽しめます。グレイト・アメリカン・ソングブックの数々を、独自のヒップな解釈で新たな魅力を再発見させてくれるのは、アーマッド・ジャマルを聴く喜びの一つ。静と動が一体となった知的であり感性豊かな奥ゆかしい演奏は、どこまでもダンサブル。現代の頭で練られたジャズとは明らかに一線を画しています。「Snow Fall」では鍵盤の上を指がダンスをしているかのように滑りながら、軽やかに高音から低音へと駆け降ります。まるで雪が舞い降りる様が聞こえてくるようです。ドラマー、ヴァーネル・フォーニアのブラシによる演奏は、さながら雪かきをしている様子でしょうか。
ピアノとギターによるデュオアルバムのバイブル。ビル・エヴァンスとジム・ホール、音楽的盟友ともいえる二人の深い音楽性と一体感は、聴き手を深遠な世界へと誘います。何度聴いても完璧でこれを超えるテイクは存在しないと断言できてしまいそうな世紀の名演「My Funny Valentine」。通常バラードで演奏されるこの曲での意外なアップテンポでの解釈、テレパシーとしか表現できない程の一糸乱れぬシンコペーションの合い方、否応なしに興奮が高まります。この季節にはジョン・ルイス作「Skating in Central Park」がピッタリです。軽やかに子供達が寒さなど物ともせずにセントラルパークを優雅にスケートする可愛らしい姿が浮かんできます。ちなみにジム・ホールは私の妻がニューヨークで当時働いていたカフェの常連で、東日本大震災のニュースを聞くと大慌てで「家族や友人は大丈夫か?」と心配し妻に話しかけてくれたそうです。日本を心から愛していた紳士でした。
ケニー・ドーハムの温もりのある音色、歌心はいつも心の中の特別な場所にあります。当時のトランペッターはビバップの流れを汲み、その大将ディジー・ガレスピーのように吹くことが求められているかのような時代がありましたが、その中から次第にマイルス・デイビスをはじめ、ケニー・ドーハムも個性を確立していきました。陰影に富む味わい深い音色と音楽性はマイルスにとって筆頭の好敵手でもあり、ディジーの影響下からの脱却という意味で共に切磋琢磨したのだと思います。本アルバムでは春にちなんだ6曲がブルージーに演奏されます。メンバーそれぞれに好演を繰り広げますが、キャノンボール・アダレイ含むホーンセクションのアンサンブルと、シダー・ウォルトン、ポール・チェンバース、ジミー・コブ、フィリー・ジョー・ジョーンズのリズムセクションがバンドを引き立てます。私はこのアルバムについて録音時の様子をジミーに質問しなかったこと、今でも悔やまれます。
体調が悪く常に薬を服用し、生活が困窮しながらもブルーノート・レーベルでタレントスカウトとしても重要な役目も担っていたアイク。その音楽は高らかに朗々と歌われ琴線に触れます。本作は愛されながら肺癌のため短命に散った彼が残した最高傑作の一つとも呼び声高い作品で、しみじみと心に沁みてきます。フレディー・ローチのオルガン、ミント・ヒントンのベース、アル・ヘイウッドのドラムもグループとしての一体感も素晴らしく、切ないバラードと鬼気迫るようなアップテンポのどちらもたっぷりと歌い切る頼もしいリーダーは、どんな状況でも持ち味を発揮し、そこに大きな人柄を感じます。できる事ならぜひ会ってみたかったヒーローです。「It Might as Well Be Spring」はこの曲の決定盤ともいえる演奏ですが、アルバム全体を通して繰り返し聴きたくなる魅力に溢れています。
今よりも若い頃、私はエラ・フィッツジェラルドやサラ・ヴォーンなどの文句のつけようのない明快で胸のすくような歌唱力の虜になっていましたが、今は人生の悲哀やブルースを誰よりも感じるビリー・ホリデイの決して歌い上げない語り部としての奥深い歌に魅了されるようになりました。音楽は奏でる者の非常にパーソナルな人生の生き様が自ずと反映されますが、それを芸術の域にまで昇華したビリーはその筆頭ジャズミュージシャンでしょう。ビリーとの共作を残した事でも知られる女性作曲家、アイリーン・ヒギンボサムの書いた「Some Other Spring」は春の名曲の中でも特別に好きな曲です。静かに熱い偉大なビリーの魂が我々の魂を解放してくれるかのようです。ジャズがお洒落という興味の持ち方を入り口として、さらに深い魅力を発見してみませんか。
トミー・フラナガンが愛してやまなかったチェコスロバキアからアメリカに渡った才人ベーシスト、ジョージ・ムラーツ。二人のあたたかく親密な音の語らいがたっぷり楽しめます。ジョージ・ムラーツは当代最高のピアニスト達にこぞって愛され、オスカー・ピーターソン、ビル・エヴァンス、ハンク・ジョーンズ、ローランド・ハナとの共演でもそれぞれ綿密な音楽コミュニケーションで感化し合い、シーンで常に引っ張りだこの欠かせない存在でした。その中でも特に本作トミー・フラナガンとのコンビはジャズファンの心の中にいつまでも強くあります。トミーがリラックスしながらもチャレンジ精神を持ち、伸びやかにピアノが歌っています。これもジョージ・ムラーツの安心感からくるのでしょう。春の高揚感が感じられるような「They Say It’s Spring」がお気に入りです。
冒頭のトラック「Moon Ray」からムード満点の幕開けで、シンバルだけで惹きつけられます。一貫して全ての曲のイントロはリーダー、ロイ・ヘインズから提示されます。その生き生きと躍動するドラムは、とても小気味が良く、同時に音の重心が低く芯をついて楽器を鳴らし切ります。「Snap Crackle」とはロイのニックネーム。特にスネアドラムの野生味溢れるサウンドが彼のシグネチャーである事からきています。ビリー・ホリデイの「Some Other Spring」も取り上げられていて、またしてもイントロからして誰も思いつかないクリエイティブな始まり方!ローランド・カークのソウルフルで個性的な演奏、トミー・フラナガンの流れるソロ、ヘンリー・グライムスの懐深い支えも堪りません。ロイ・ヘインズは、昨年11月に99歳で惜しくも旅立ちましたが、最後まで現役で新鮮な演奏を繰り広げ、時代を超越した生きる伝説としてジャズコミュニティーの心の拠り所でした。私が故ロイ・ハーグローヴのバンドで演奏していた時、ニューヨークのブルーノートに聴きに来てくださった事があります。私をとても気に入ってくださり、話がしたいと彼の隣の席に招待してくれました。あたたかい眼差しで真剣に私を見つめながら、日常の事から歴史的な貴重な話の数々まで、フレンドリーにお話ししてくれた思い出は忘れえぬかけがえのないものです。
Seals and Croftsの1972年のヒット曲ですが、私が最初に好きになったのはThe Isley Brothersによるこちらのカバーでした。白人グループやコンポーザーの名曲を黒人ミュージシャンがよりソウルフルに仕立て直した結果、時にオリジナル以上の魅力を放つことも多く、当時The CarpentersやCarole Kingのマスターピースもこぞって黒人ソウルミュージシャン達によりいち早くカバーされていました。その多くは原曲よりテンポを落とし、より味わい深いグルーヴが心地良く響きます。本アルバムには同様にJames Taylorの名作『Don’t Let Me Be Lonely Tonight』も収録されています。『Summer Breeze』はThe Isley Brothersの曲とも思えるほどで、本家を凌駕しているかのようにも感じます。この曲はRolling Stone誌が“Best Summer Songs of All Time”とも称す夏の定番ソングでもあります。
インディアンサマーという言葉は渡米前までは馴染みがなかったのですが、主に北米で9月の終わりから11月はじめの間に数日間続く暑い日のことを指します。日本では季節外れの小春日和という感じでしょうか。「幸せな落ち着いた人生の晩年」という例えとしても表現されることもあるようです。Victor Herbert. Al Dubinの作った同名スタンダードソング『Indian Summer』も大好きですが、今回はCon Funk Shunのインストの名曲『Indian Summer Love』を。眩しい日差しが注ぐ陽気な夏とは異なり、どことなく哀愁が漂うかのようです。タイトルから想像すると、秋から冬へ向かうような季節に感じられるあたたかな幸せ、愛に溢れる人生の晩年のイメージでもあるのでしょうか。繰り返しずっとリピートしたくなるような曲で、喜びと切なさを感じ、豊かな気持ちにしてくれる私のお気に入りの一曲です。
ソウルミュージック界の最後のレジェンドStevie Wonder。彼の溢れる才能の中でも、作曲家としてのセンスを強く感じる一曲です。特にこの曲の持つドラマチックなメロディー、ハーモニー、転調の構成はミュージカル的な要素があり、私にはRichard Rodgersの『I Have Dreamed』(From“The King And I”)のようなジョモに高まる高揚感を感じます。おそらくStevie Wonderもこうした過去の偉大なグレイト・アメリカン・ソングブックからも学び、作曲技法を高めていったのでしょう。夏に愛する者を失ってしまう悲しみをジワジワと歌い上げ、歌詞に春夏秋冬を配置するあたりもスタンダードソングが持っていた古典的な様式美も感じます。Roberta Flackのカバーする同曲もとても素晴らしいので、ぜひチェックしてみてくださいね。
80歳を超えた現在も世界中で精力的に活動を続けるジャマイカの巨匠Monty Alexander。私のヒーローの1人です。私は故Roy Hargroveと欧州をツアー中にMontyと同じフェスティバルに出演したり、ホテルも同じだったことがあり、気にかけてくれるようになりました。私が事件に巻き込まれ、大怪我を負った時にも真っ先に心配の電話をいただき、どれだけ勇気づけられたかわかりません。本アルバムは録音時まだ20代後半だったMontyによるライブ録音。トレードマークである溌剌とした演奏を縦横無尽に繰り広げ聴衆を惹きつけます。特筆すべき点は、先輩格のEugene WrightとBobby Durhamとの鉄壁のコンビネーション!レパートリーも親しみやすく、Michel Legendの『Summer of ’42 Theme』やThe Carpentersでヒットしていた『We’ve Only Just Begun』も、実は曲が生まれてすぐにレパートリーにしていて、時代を生きるタイムリーな感覚も感じられます。夏には清涼感のある『Summer of ’42 Theme』がおすすめです!
リーダーWoody Herman自身も当時最高のメンバーによるお気に入りの録音と熱く語る作品。私はDuke Ellingtonのマナーで書かれたAl Cohnのアレンジによる、あまり取り上げられることはないであろう隠れた名曲『Summer Nights』が気に入っています。いかにもなムーディーな雰囲気が暑い夏を一気にクールダウンしてくれそうです。しかし、ただ心地良いだけではなく緊張感もあります。最初から最後まで時折聞こえてくるのは、まさかの救急車のサイレンを模したアレンジでしょうか!こだわって終始使われています。個人的にはNat Adderley の参加が嬉しい作品です。
老舗ヴィレッジ・ヴァンガードでのライブ録音。リーダーのボビー・ティモンズは、私が9歳でジャズに目覚めた頃の最初のアイドルのひとりです。ファンキーさとビバップを血肉化した歌心、厚みのあるコードワークが冴えわたり、まさにピアノトリオの理想形ともいえる演奏が展開されています。私自身もこの歴史的な空間でジミー・コブと共演する機会がありましたが、そのときは常にこの名盤を心に抱きながらピアノに向かいました。トリオのドラマー、アルバート・“トゥーティ”・ヒースは晩年をニューメキシコ州で過ごしました。私が同地で共演した友人のドラマーは彼を慕い、日常的に世話をしていましたが、その彼を通して聞いたエピソードがあります。ーー「ティモンズは時折ライブに姿を見せず、仕方なくロン・カーターとデュオで演奏することも多かった」というのです。そう考えると、ここに残されたトリオ演奏は非常に貴重な記録といえるのでしょう。なかでも「Autumn Leaves」は、この季節にふさわしい名曲であり、数ある録音の中でも間違いなく指折りに数えられる、トリオの名演です。
マッコイ・タイナーの小気味よくグイグイと前進するモダンな演奏は、当時ピアニストにとっても最先端でした。スタイリストとしての個性だけでなく、精神性の面でも圧倒的な影響力を放ち、アルバムのタイトルからも前向きな意気込みが伝わってきます。
ビル・エヴァンス、ついに待望の初来日。そのライブ録音が残されたのは大きな幸運でした。60年代からたびたび来日の話は持ち上がっていたものの、なかなか実現せずーーだからこそ駆けつけたファンにとっては、夢が叶った瞬間だったに違いありません。収録曲のひとつ「When Autumn Comes」は、知性派ピアニストとしてビル・エヴァンスとも並び称されるクレア・フィッシャーの作品。どこかミステリアスで、ほのかな哀愁を漂わせる旋律は、まさにこの季節に寄り添うような響きです。しかも、同じレパートリーを繰り返し磨き上げることの多いエヴァンスにとって、この曲はこのアルバムでしか聴けないという珍しい存在。ファン垂涎の一曲です。
ジャマイカが生んだ天才ピアニスト、モンティ・アレキサンダー。20歳で残したデビュー作は、早熟のスイング感を遺憾無く発揮したライブ盤です。
昨年、ドラマーのジョージ・コールマンJr.から「父があなたと演奏したがっています」と連絡をいただきました。飛び上がるほど嬉しい、レジェンドからの思いがけないオファーでした。初共演はニューヨーク、彼の本拠地であるスモークで実現。ジョージのあたたかさに胸を打たれ、幸せを噛み締めながら私は夢中でピアノを弾いていました。90歳を迎えてなお第一線で活動を続けるジョージ・コールマンは、まさに現ニューヨーク・シーンに残る最後のジャズ・ジャイアント。美しい音色と自由奔放な表現、そして揺るぎない芯の通った演奏からは、まさしく「ジョージ節」が溢れ出しています。